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【川端安里人のシネマジプシー】vol.13 ハイ・フィデリティ

FILM 2017.01.27 Written By 川端 安里人

はい、2017年最初の映画コラムです。そもそもこのアンテナというサイトは記事をご覧になったらわかる通り、現在はまだバンドや音楽界隈をの情報が多めのサイトなんで、今回はそういった人も興味が持てそうな自分の大好きな音楽映画『ハイ・フィデリティ』について書きます。

『ハイ・フィデリティ』、ちょっと聞きなれない言葉かもしれませんが、Hi-Fiと書いたらわかる人はわかるかもしれませんね。原音により忠実なという意味ですが、そこから高音質という意味です。でもこのフィデリティ (fidelity) という単語、決してCDやレコードのためだけにある単語じゃないんです。誠実なという意味もあるんです。この『ハイ・フィデリティ』がどんな映画かというと、レコード屋のボンクラ店長が主人公の恋愛コメディ映画です。毎日根暗で暴力的な映画ばっかり見てるわけじゃないんですよ、ラブコメだって観ますよ。

 

この映画、主人公は音楽好きが高じてレコード屋のボンクラ店長をやってる三十路男ロブが彼女から逃げられるところから始まります。『いったい自分の何がダメなんだ』と自問するロブは普段店で音楽オタク仲間と“〇〇な曲ベスト5”をあげるように“今までのつらい失恋ベスト5”を振り返ってフラレ続ける原因を探ろうとする…ってお話です。

 

この内容だけだったら自分がどうしてこの映画を愛してやまないのか、人に勧めたいのかわからないですね。なので、この映画の内容に習って『ハイ・フィデリティ』の素敵なところベスト5』をあげようと思います。

①ちょうどいいオタク感

そもそもオタクが主人公の映画が出始めたのは80年代あたりからです。と言っても80年代のオタクが主人公の映画はどちらかというと映画オタクが狂気に走る『フェイドTOブラック』のように暗い映画が多いような気がします。90年代に登場したタランティーノという、オタクを地で行く監督が少しずつ映画内での市民権を獲得していき、00年代日本では『電車男』が、アメリカでは『バス男』こと『ナポレオン・ダイナマイト』のヒットをきっかけにオタクが主人公の映画というのは珍しくなくなりました。

 

で、この『ハイ・フィデリティ』が制作されたのはちょうど2000年。何が言いたいかというと、根暗な日陰者でもなければ開き直った変人でもない、ちょうどいいオタク感が全編漂っています。ちなみに主人公のロブさん、ちょっとだらしなくてオタクなんだけど、ちゃっかりやることはやって意外とモテる。こんな人周りにいませんか?

②音楽愛、レコード愛

先ほども書いたように主人公ロブはレコード屋の店長です。ガンガン働いてるわけじゃなくて店で自分の好きな曲をかけたり、カウンターの中で音楽雑誌を開きながらぼけっとタバコをふかしたり…。ロブさんのお店『チャンピオンシップ・ヴァイナル』にはいつもいる店員が二人いまして、いつも音楽のことを喋りまくってやかましいバリーと、シャイで口数は少ないけど音楽へのこだわりはしっかり通すディックです。この三人で「マーヴィン・ゲイのどのアルバムが最高」だの、「人生のベストアルバム5枚は〇〇」だのとくっちゃべっています。

 

音楽好き、それも70年代〜90年代の洋楽好きならこのレコード屋のダチョウ倶楽部みたいな三人の音楽話を聞くだけで楽しいはず!もちろんそれだけじゃなく、映画自体にもいい感じの名曲がいっぱい流れています。たまらねぇな。

③素敵なキャスト

主人公のロブを演じるのはジョン・キューザック。正直なところ、この人といえばこの映画!というのはないんですが、『マルコビッチの穴』のようなゴリゴリのインディーズ系映画からトンデモ終末映画『2012』みたいな大作まで幅広く出演されてる方なんで、きっとどこかで見たことあるはず。妙に親近感のわくその外見が今作のキャラクターにぴったりです。

 

それだけでなくハイテンション店員バリー役のジャック・ブラック (この人はいつも通り) を始め、有名無名に関わらずキャスト陣は皆好演で、しかも肩の力をはらずに生き生きとしています。見てるだけでゆるく幸せな気持ちになるんですが、個人的には未だに根強い人気を誇る映画『ショーシャンクの空に』で主役をしていたティム・ロビンスが“セガール似の嫌な奴”イアン役を怪演しているのがツボでした。

④監督がスティーブン・フリアーズ

この『ハイ・フィデリティ』映画の舞台はシカゴなんですが、元はロンドンを舞台にした小説なんですね。で、その名残からかスティーブン・フリアーズというイギリスの監督さんがアメリカに招かれて作っているんですが、自分はこの人が作った『堕天使のパスポート』という移民問題をテーマにした映画が大好きなんです。エリザベス女王が主人公の『クィーン』なんかが有名かと思うんですが、この人の作品はジャンルに関わらずどれも本当にウェルメイド、秀作揃いです。

 

今やLGBT映画の古典になりつつある『マイ・ビューティフル・ランドレット』なんて映画もありますね。ちなみに、『ダークナイト』三部作なんかで知られるクリストファー・ノーラン監督はこのフリアーズ監督の大ファンらしくて、『殺し屋たちの挽歌』という84年のハードボイルドなロードムービーが人生ベスト級に好きなんだとか。

⑤第四の壁を破壊

演劇 / 映画用語に詳しくない人にとっては“第四の壁”ってなんじゃ?って話だとは思うんですけど、物語の登場人物がカメラ / 観客に話しかけてくるのが第四の壁の破壊です。最近だと大ヒットしたアメコミ映画『デッドプール』なんかがこの手法を活用してましたね。

この『ハイ・フィデリティ』も第四の壁を破壊しまくっている映画です。なんだか映画用語を使われると難しそうと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。とにかく主人公のロブくんが延々こちらに向けて話しかけてきます、そうするとどんどん自分が実際に00年代のアメリカにあるレコード屋にいるような気がしてくる、登場人物たちに親近感が湧いてくる。ただそれだけの話ですがこの映画はとても効果的にこの手法を使ってます。

 

どうでしょう『ハイ・フィデリティ』、この映画は全然映画を見たことない人から、結構映画見てる人まで幅広く楽しめる作品だと思います。多分この映画が楽しめないって人は、ロブくんの人柄が好きじゃないって人でしょうね。でも音楽マニアでちょっと女々しくて、ガキっぽいところが抜けずにいるロブくんが恋愛への誠実さ (フィデリティ) を取り戻すことができるのか、気になる人は観て損はないと思います。あ〜、レコ屋に入り浸りたい〜〜!

 

ハイ・フィデリティ

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