INTERVIEW

森でからっぽになるアート展『森の展示室』 主催者インタビュー :皮革作家・logsee

ART 2020.04.02 Written By 肥川 紫乃

写真:津久井珠美

京都市内から車で北上して約1時間。京都府京丹波町旧和知にある、わち山野草の森では12ヘクタールの園内に約900種の山野草や花木などが息づき、四季折々の美しい花や風景を満喫することができる。そんな森の中で、今年で7年目となるアート展『森の展示室』が2020年4月11日(土)〜4月19日(日)に開催される。黒谷和紙の職人である和紙作家・ハタノワタルを中心に2014年にスタートし、これまでも木工やガラス・和紙・革・写真など様々な素材を扱う作家が「自然との共存」をテーマに、この場でしか出会えない作品を展示してきた。そして2019年からは革作家・logseeが主催を引き継ぎ、作家の深化を感じられるアート展として、第二章の新たなスタートを切った。

 

『森の展示室』はあらかじめ割り振られた区画に作品を持ち寄るクラフトフェアやアート展と異なり、作家自らが作品を展示する場所を森の中に見つけるところから制作がはじまる。このイベントでは場所も作品の一部として扱われているからだ。鑑賞者は、現代のつくりすぎたものに囲まれた生活から離れて、なにもない森の中でただ、この場所だから生まれる表現と対峙する贅沢な時間を過ごすことができる。

 

地方に場所を構え、作家活動をしながら持続可能な暮らしを模索する。耳障りはいいが、きっと楽なことばかりではないはずだ。彼らが今、暮らしの中でなにを考え、またイベントを通じてどのようなものを作り出そうとしているのかを伺った。

EVENT記事『森の展示室』

https://stg.antenna-mag.com/post-40407/

本記事では、主催を引き継いだ皮革作家・logseeの石黒由枝、幹朗夫妻に、彼らの人生の転換点になったという『森の展示室』の魅力と、これからの展望についてインタビューを行った。神戸のフルオーダーの鞄屋で三年間の修行の後に独立した職人の石黒由枝と、会社員から作家へ転身した石黒幹朗の二人による作家ユニットであるlogsee。彼らは2015年に拠点を西宮から船井郡京丹波町に移し、本格的に活動を開始した。2019年には、最高級の革で仕立てるフルオーダーで培った技術や経験を元に、極限まで削ぎ落としたデザインを形にする「LO(エルオー)」というブランドを由枝さんがスタート。一方、幹朗さんは皮が革になるまでの過程を活かし、革のあり方を再解釈したブランド「uun(ウウン)」を立ち上げ、それぞれに活動を行っている。

『森の展示室』は僕たちの転換点になった

──

『森の展示室』には、はじめはボランティアとして参加されていたんですよね。どのような経緯でイベントに関わるようになったのか教えていただけますか。

石黒幹朗(以下:幹朗)

2016年の11月末は、西宮から京丹波町に引っ越してきてlogseeとして本格的に始動したタイミングでした。その頃、商品を入れる箱を探していているうちに、ハタノさんの名前に行き着いたんです。黒谷和紙の作家さんということがわかって、工房が近かったので電話して会いに行きました。『森の展示室』というイベントをしていることはサイトで見て知っていたので、「logseeとして出られないか」と聞いたら「革はちょっと違う」と断られたんですよね。その時は理由もわからなくて出展は諦めたんですけど、ボランティアスタッフとして受付を手伝ってくれないかと誘われました。

──

なぜハタノさんは「革は違う」とおっしゃったのでしょうか。

幹朗

受付をしながら出展されている作家さんと関わることで、言っている理由はわかるなと感じました。木工や陶・ガラス・麻を使った作家さんの作品は、森の中に溶け込んでいたんです。その後自然と向き合うとはどういうことか1年間考えました。その間、logseeの鞄を<わち山野草の森>に持ち込んで、どう自然と共存させられるかを試行錯誤しながら撮影して、それをInstagramにあげていたら、ハタノさんが僕らが自然と向き合おうとしていることを感じてくれて。翌年、作家として出てみないかと声をかけてくれ、2年目から作家として関わり始めました。

──

作家として出展するうえで「自然との共存」というテーマをどのように捉えて作品作りをしているんですか?

幹朗

自然の環境の中にあって不自然でない物作りを目指しています。

石黒由枝(以下:由枝)

高級な鞄をフルオーダーで作る時、一枚の革を広げて、細かい点の傷も全てチェックするんです。本当に一分の傷もないきれいな部分を使いますが、その時に避けた傷は、動物がぶつけるとか擦れるとか虫に刺されるとか生活していた跡で、「避けられた部分には動物っぽさがあって個性だな」といつも思っていました。

 

『森の展示室』で出会った建築家の大橋さんがデザインする椅子の制作に関わったことがきっかけで、箕面の<季節といなり 豆椿>さんで展示会をすることになったんです。『素のさき(そのさき)』という展示会で、それぞれの「素」を展示するというものでした。私は「におい」という要素で、普段から思っていた実際に嗅ぐ「におい」と内部から漂ってくる、気配のようなものの違いについて作品にしました。革製品は高価で、匂い立つような美しさです。一方で、避けられた部分には傷やぶつけた跡や血筋があり、それは獣であった痕跡で獣臭い部分です。同じ革でも違った「におい」を感じることができます。『森の展示室』を通じて、職人では伝えなかった動物としての自然な部分を語っていいんだと気付けました。

左:幹朗さんの作品
右:由枝さんの作品
──

展示の経験がきっかけで発想が自由になったんですね。

幹朗

最初に作家として参加した時は、妻が作る鞄を森の中に潜む感じで置いてみました。革鞄って濡れるのも良くないし、日に当たると焼けてしまうので、『森の展示室』は雨ありきのイベントなので初年度はアクリルケースで作品を全部囲ったんです。その時はアクリルケースに写る自然も含めていいなと思っていたんですけど、なんとなく溶け込んでいない違和感があって。それから革が持つ概念を一旦無しにして、再構しなおしてみることを始めました。濡れたら柔らかくなるし、乾くと硬くなる。日に当たって焼けた柄も良い。解釈次第で革はもっと面白くなると思い出しました。

──

『森の展示室』がお二人にとって発想の転換点になっているんですね。そんなイベントが5年目を迎える時に主催のハタノさんが終了宣言をされて、その後logseeさんが引き継がれたわけですが、続けたかった理由は何だったのでしょうか?

幹朗

なくなっちゃうのは、もったいないじゃないですか。

──

なぜもったいないと思われたのか、もうすこし詳しく聞かせていただけますか。

幹朗

出展されている作家さんが、心から楽しんでやりたいことを表現しているのが、『森の展示室』の魅力だと思います。これはハタノさんからの受け売りで僕も大事にしているところなんですけど、作家活動をしていると、普段は売れるものを作るために制作の時間のほとんどを使うし、それに加えて家族との時間も必要なので、10あったら10全部の時間を使っちゃうんですよ。でも『森の展示室』用の作品作りという理由なら、やってみたかったことのために、10のうちの1が遠慮なく作れる。

 

作家の立場からすると、すごく贅沢な時間なんですよね。そんな作家の渾身の作品を見られる場所です。イメージでいうと、売れているミュージシャンが自分のやりたかったことだけをみんなで発表するフェスのような感じだと勝手に思っています。

選んだのは、選択できる自由な暮らし

──

現在は出展作家としても主催としても活躍するお二人が、logseeとして活動を始めるに至った経緯を教えてください。

幹朗

僕はもともとサラリーマンで、電気屋で白物家電を売っていました。28歳まで派遣とかアルバイトでフラフラしていたんですけど、結婚するタイミングでそのまま社員になって8年間働きました。丹波町に引っ越す時に福知山の店舗に転勤させてもらったんですけど、2ヶ月くらい経って、彼女の仕事が軌道に乗りかけて1人でやっていくのが大変になったので、そっちを手伝う形で辞めてしまって。

由枝

私は大好きなアパレル業界で働いていた頃から漠然と何か作りたいなと思っていました。20代後半になって仕事を辞めたタイミングで、友人が「鞄や靴の修理のアルバイトを一緒にやらないか」と誘ってくれて、そこではじめて革を触りました。修理ができるなら作ることもできるかもしれないと思い、そのような職をネットで探していた時に、神戸のオーダーメイドアトリエを見つけました。

 

「3年くらい経ったら独立できるくらいの技術は教えてあげられるよ」とおっしゃってくれて、修行が始まりました。そこで鞄や革に関する技術や知識だけでなく、食や遊び、音楽や考え方など興味のあるものを磨くことが、鞄作りの技術の向上にもつながることなど多くを学びました。独立後は、インターネットとかクチコミで紹介してもらいながら、フルオーダーメイドの鞄を家で作って今にいたります。

──

そもそも、お二人はなぜ京丹波町に移住されたんですか?

幹朗

20歳の頃から街での生活に違和感を感じていました。人や車の流れが速く、別に急がなくてもいいのに、せかせかと時間だけが流れていくような感じがしていて。近くに何でもあるけど、求めているものは少なくて。そんな日々に疲れていました。

 

京丹波町で暮らしてみて思うのは、ちゃんと自分たちで選択をしながら生きている人たちが多いなということです。特に遊べるところがあるわけでもなく、飲食店も少ない。食材の買い出しに30分ほど車を走らせなければいけないけど、そこにある物で十分。足りないものがあればネット通販で翌日には荷物が届きますし、街で必要な用事があれば2時間かけて行けばいい。何もないところだけど僕たちが必要としていたものがたくさん揃っていて、必要不必要が明確になりました。田舎は不便だという見方もできますが、何もないから自分で作れるという自由さがあると思います。

──

自分の暮らしを選択できる自由っていいですね。「uun」や『森の展示室』の作品も、西宮にいたら今の発想は出なかったと思いますか?

幹朗

絶対出なかったですね。確信レベルでそう思います。イベントを通じて素敵な人たちと出会えたおかげで、クリエイティブで自由な発想で作品作りができるようになってきたと思います。『森の展示室』に関わっていなかったら、西宮でやっていたことをただ場所を移して広い工房でやっていただけだったと思うんです。

由枝

『森の展示室』の作家さんとはすごく深く仲良くなれていると思っていて。展示では売るための作品じゃなくて、もう少し自分の気持ちを素直に表現しているから、共感したり刺激になったり、芯の部分で繋がることができていると感じます。

──

そういった周りからの刺激を受けて、lgseeでは皮革作家として今後どのようなことを届けたいですか?

幹朗

シンプルに、僕たちが作るものを受け取った人が特別な時間を感じてくれたらいいなと思っています。いい財布とかいい服を身に付けている時って、ふとした時に「めっちゃええやん」っていい気分にさせてくれる。今は百円均一とかに物が溢れているけど、高いお金を出して本当に気に入って買ったものは、何度でも嬉しい気持ちになれるし、日常を少し特別にしてくれると思うんですよね。

作り手として、地域を面白く解釈して提案していきたい

──

最後に、『森の展示室』がこれから目指す方向性についてお伺いしたいのですが、これからイベントを通じて、作り手やお客さんに何を与えられると思いますか?

幹朗

単純に、気持ちのいい場所で美しい作品をのんびり自由に楽しんでもらえたら、それ以上の贅沢はないと思っています。作家の純粋な興味で仕上げた作品を見られる貴重な機会ですし、会場に遊びに来てくれた人にだけ感じられるものがあるはずです。

──

今後どのようにイベントを継続させていこうと考えていますか?

幹朗

その場ではお金にならないこともわかっていながら作家の皆さんは時間とお金を費やして出展されているので、出展することで後に仕事に繋がるような仕組みが作れたらいいなと思っています。今でも出展作家同士の繋がりで仕事になっている事例はあります。

由枝

集客に関して言えば、たくさんの方に来ていただけたら嬉しいですが、少なくてもいいからイベントに共感してくれる方に見に来てもらおうという狙いで、今回からDMのデザインにもこだわりました。ハタノさんにお願いして、受け取った人は絶対に来たくなる作りにしているんです。

幹朗

封筒の中に今年のテーマ「土」に沿ってハタノさんが漉いてくれた和紙を入れています。山野草の土になりかけの腐葉土を拾ってきて、たたいて土にしたものを手漉きで紙にしてくださっているんです。

──

贅沢なDMですね。もともと『森の展示室』は、わち山野草の森の地域おこしの側面もあったと思いますが、そういった伝統技術や地方経済など、今後規模が小さくなる可能性があるものに対して、作り手としてこれからどのように貢献していくんでしょうか。

幹朗

人が少ない地域では、目立つことをしたらピックアップされちゃうんですよ。来年から動く予定ですが、とあるアートイベントの企画を手伝ってくれないかと声がかかったり。最初は僕もプロじゃないから、面白ければやるくらいの気持ちだったんですけど、作品を作るのと企画をするのって変わらないなと今は思っています。革は自分がどう捉えてどう形にすると面白いかを考えて作品にするもの。イベントも、和知という何もない田舎を素材としてどう活かしたら面白いのかを考えて、解釈を提案しているんです。そういう関わり方をしていきたいですね。

由枝

このへんのおじいちゃんおばあちゃんは、ものづくりを当たり前にしているし、自分たちで守りながら集落を作ってました。腰が曲がっても山へ入って畑への水路を掃除するし、暑い夏も寒い冬も畑を耕すんです。生きているなと思います。そんな田舎の暮らしを見て、実際に手を動かして作ることを仕事にしていない方々も、ものづくりを身近に感じてもらい、実践するきっかけになったらいいなと思っています。

──

この間、奈良県の山添村に会社の同僚の案内で遊びに行ったんですが、宿で出す野菜は近所のおばあちゃんたちの作った野菜で、観光の力で地域を元気にしようと取り組んでいるようでした。実際に野菜を収穫させてもらったり、知らなかったことを知れて面白さを実感して、また通いたいと思えました。ここにもまた来たいと思っていますし、見て体験するって大切なことですよね。

由枝

自分の暮らしに必要なことだからものづくりを当たり前にしているし、本当はそうやって脈々と文化が受け継がれてきたんですよね。これからはもっと若い人も、それを仕事にしなかったとしても、ものづくりを身近に感じて実践できたらいいのになと思っています。

──

考えを押し付けるのではなく、生き様や生き方を見せることで気付きを与えられたらいいですよね。ありがとうございました。

logseeプロフィール

「log」記録、記憶 +「see」見る、会う
神戸のフルオーダーの鞄屋で三年間の修行の後、独立。
2015年、拠点を西宮から船井郡京丹波町に移し、「logsee」として本格的に始動。
2019年、膨らんだブランド内のイメージを整理し、それぞれに明確な方向性を定め、ブランドを細分化。
新たに「LO」と「uun」を始動。
我々が扱っている革という素材の元々は皮でした。
皮から革になる、革から皮に目を向けるという、二つの方向から生まれた製品が「LO」と「uun」です。
LOでは、最高級の革で仕立てるフルオーダーで培った技術や経験を元に極限まで削ぎ落としたデザインを形にします。
uunでは、皮を鞣しの段階から行い、革になるまでの過程の状態をそのまま活かし形にします。

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