REVIEW
fragments
西洋彦
MUSIC 2020.03.29 Written By 峯 大貴

和歌山県出身、京都在住のシンガーソングライター、西洋彦。前作『ふるえるパンセ』(2016年)から4年ぶりとなった、この2作目のアルバムを称すならば、こわれてしまった一日に散らばった破片(=“fragments”)を拾い集めて歌にしていく、路傍のオーディオ・ブックだ。

 

これまで彼の歌の起点は「言葉」にあった。目の前の事象から距離を置いて描写していく字余り気味の詞が、情景のイメージだけでなく、抑揚とメロディも備えていく。それを細い体から捻り出すようにヒリヒリとした甲高い声で歌うのだ。アコースティックギター弾き語りのスタイルも伴って友部正人からの影響を思わせる、日本のフォーク・ミュージックの直系としての言葉と声が存在感を放っていた。

本作においても、言葉に比重を置いたソング・ライティングの骨格は変わっていない。京都で暮らす中で感じた物事に対して、平素な言葉と文体で綴られているが、手垢のついた表現を頑なに避け、丁寧に磨き上げられている。中でも“シュークリーム”での「生活って言葉は 何だか好きじゃない / でもワインのコルクを抜く時の 爽やかな気持ち」の部分に現れるアイロニカルな美学には自省も伴ってハッとさせられるし、俳人・池田澄子について歌った“五月の青空”での年齢を効果的に配した表現には思わず目を閉じて詞を味わってしまう。また全編に渡って季節や時間が明確であり、コーヒー・シュークリーム・バゲットを始め、食べ物が出てくることも多い。明暗や気温、香りが醸される五感で“生活”を味わう言葉選びが秀逸だ。

しかし本作における最大の特徴と変化は、プロデューサーにシンムラテツヤ、演奏にも彼のバンド、シンムラテツヤ&ジョンとヨーコのパブロック(以下JYPB)の面々を迎えたことで、アレンジと曲の構成が格段に豊かになった点である。シンムラとの初タッグは本作にも収録されている2018年リリースのカセット・シングル“Only love can break my heart”。タイトルはNeil Young(ニール・ヤング)“Only love can break your heart”からの引用だろう。JYPBによる軽快なバンド・サウンドに乗せて、西が突き抜けるように歌う健やかな音像が印象的。まさしくYoungとCrazy Horse(クレイジー・ホース)のような、シンガーソングライターとバンドの幸福な出会いによって風通しのよさが生まれた、彼の新たな水門が開いた楽曲だ。このシングルの時のフレッシュな手ごたえが、今回全面的にタッグを組んでのアルバム制作につながったことは容易に想像できる。

シンムラによるプロデュースの功績は、西の言葉と声だけで押し通してしまえるむき出しの歌の説得力に、彩りを加え訴求力をブーストさせている点である。冒頭“アリスン”はElvis Costello(エルヴィス・コステロ)の同名バラッドの存在も思い出してしまう、すでに目の前から去ってしまった人に向けた歌。西がスリー・フィンガーでアコースティック・ギターをつま弾き、朴訥と歌う後ろで、徐々にくぐもりが開けていくようにシンムラのピアノとギターが入ることで煌びやかに本作の幕開けを告げている。また特筆すべきは“keage”だ。タイトルはインクライン(傾斜鉄道)でも有名な京都随一の桜スポットである蹴上だろうか。拍子が5・6・8と自在に伸縮し、実に不思議な浮遊感を持った曲構成である。それはつまりリズムが詞の譜割りとメロディに呼応して可変的に揺さぶられているのだが、JYPBのネオアコがかった繊細なアンサンブルによって、作中屈指のメロディアスなポップ・チューンとして成立している。ストレンジな魅力を放つ意欲作だ。

本作でこれまでのフォークを起点としたスタイルから大きく幅を広げた、あなたのことをこう呼びましょう、“遠くからでも見える人”。元来から魅力である「言葉」と「声」に加えて、シンムラテツヤによる「プロデュース」という大きな音楽の破片を集めて紡いだ西の歌は、新境地の魅力を放ち、根城・京都からどんどん遠くへ届いていく。

西洋彦『fragments』

 

 

リリース:2020年3月11日

定価:2,530円(税込み)

品番:dtst-013

 

収録曲:

1. アリスン
2. Only love can break my heart
3. 夜明けにギターを弾いている
4. keage
5. あの子のシャツの花の色
6. 十二月
7. Sunny
8. シュークリーム
9. バゲットの香りだけが希望みたいな夜
10. 郵便屋さんになって
11. 五月の青空

 

公式Webサイト:http://nishihirohiko.info/

 

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