REVIEW
涙の謝肉祭
影野若葉
MUSIC 2018.09.19 Written By 峯 大貴

兵庫は尼崎の在住。とはいえ年中全国津々浦々、フラメンコギター一本持って歌い回る放浪の歌姫、影野若葉による2作目のアルバム。2011年の活動開始以降、様々な名義・形態でもって進化・脱皮を繰り返し、2017年フラメンコギターでの弾き語りシンガー“影野若葉”名義で再出発して1st『別れの夏へ』をリリース。スタイル変更のフレッシュな自己紹介的楽曲集として仕上がっており、昨年ki-ftでも取り上げた。そこから1年経った本作ではジプシー・ルンバ、シャンソン、童歌、民謡とより自身のルーツに立ち返ったマージナルかつ闇鍋な芳香を放ち、また終わりのない旅路の中で出会った人々や日本全国で見てきた風景から生み出したような血肉の12曲が収録されている。

 

影野はいつも聴く者に、そして自身に、スポットライトではなく“影”を落とすように歌う。それは浅川マキのような歌に人生を滲ませるアングラな佇まい、中島みゆきのような軽妙かつ悲哀が滲む声、友川カズキのような心の奥底にある狂気の表出、と音楽地図の中にプロットすることは容易に出来る。しかしもっと普遍的かつ根源的に言うならば、ここでの“影”は人それぞれに抱えている心の傷のことなのだ。表題曲“涙の謝肉祭”は、今はもう会えない人を自身に取りつく“影”と称した、彼女の歌物語を象徴する楽曲である。「許されるなら今日くらいは君を忘れたい」と願うほどに憑りついた影は、最後にはずっとこれからもそばにいてくれる守護霊ともなる。悲しみと喜びが両面となった人生讃歌。影野の声には聴く者の影を呼び出して、心の傷から拠り所へと変化させてしまうイタコのような不思議な力がある。

 

また様々なゲストミュージシャンが彼女の楽曲に潜む守護霊のように支えていることにも注目したい。“涙の謝肉祭”ではN(than)によるクラリネットの音色が歌に寄り添う役割を果たし、ソリッドで猟奇的な変拍子“三・三・五”での柳本小百合によるバイオリンや、童歌のような温かい質感の“こだま”では正しくこだまのようなコーラスをキタ(than)が担っていることを始め、本作のサウンドを豊かにしている。一方で“カルト”、“待ちぼうけ”、“えんば”、“木馬のいななき”といったライヴ演奏に近い、純然たる影野一人の弾き語り曲でのアグレッシブなギタープレイと繊細かつ猛々しい歌も映え、両刀でずぶずぶと引き込まれて行くのだ。

 

多様な音楽性に一本筋を通す、憑依的な歌唱と、人の心に寄り添う“影”の存在。思わず中毒になってしまうほど濃厚に魅力を放つ、影野若葉の世界へようこそ。

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