COLUMN

【Brand New Paris ! 】第2回:シネマ

MOVIE BOOKS 2018.02.06 Written By ケガニ

パリの今の文化をお伝えするこの企画、第2回目は「シネマ」。

シネマとは一本一本の映画だけでなく、映画文化全体を指します。

シネフィルが多いイメージですが、今パリの映画はどうなっているのでしょうか。

パリのシネマ事情

フランスといえば映画、というイメージは根強い。リュミエール兄弟によって映画史が始まった場所がそもそもフランスであり、ヌーヴェルバーグに代表されるフランス映画の諸々の潮流が映画史に与えた影響は大きい。

 

数値で比べてみよう。物価の高いパリだが、大人でも1000円前後で映画を見ることができる。通常の映画館でも22時開始の回など普通だし、もっと深い時間まで空いている映画館がある。映画館数ものべ87館、404スクリーン(※2014年末、商業映画館以外も含む)であったそうだから、東京全体のスクリーン数357(※2016年末、日本映画製作者連盟統計より)と比べてもなお多いことになる。

 

しかし、何より日本と異なっている点は、映画に対する人々の感覚だと感じた。先日、スターウォーズを見に行ったときのことを話そう。

まず、座席指定のチケットをオンラインで購入し、映画館へ向かう。やはりでかでかと表示された広告がひときわ目を引く。スターウォーズはフランスでもファン人気が根強く、公開当初はずっと満員だし、巷はスターウォーズの話題でもちきりだ。雑誌の特集、Youtubeの広告をはじめ、パロディCMなどもうじゃうじゃあった。大手ラジオ局のFrance Cultureの哲学番組でさえ「スターウォーズと哲学する」という特集を組んだほどである。

 

さて、フランスの3D映画はメガネを持参しなければならないので、受付で1€で買う。これがまた気の利いた形だった。(ファンの方はご存知だろうが、ストームトルーパー型である)。

公開2日目にもかかわらず劇場入口には長蛇の列ができている。期待に胸をふくらませてスクリーン前へ。会場は当然満員である。一通りCMが流れたあと、例のファンファーレが鳴り響く。するとどこかしらから歓声があがる。

 

そう、これこそが今回お伝えしたかった点だ。見ず知らずの人たちとわいわい映画を見るなんて、これまで僕はしたことがなかった。はっきり言えば、映画好きの人たちの昔話だろうと考えていた。しかし、こうした超大作に限らず、フランスには映画を観客みんなで見ているという感覚がまだあって、みんなで笑ったり悲しんだり怒ったりする。面白いシーンではあちらこちらから笑い声があがるし、悲しいシーンではため息がもれる。

 

スターウォーズはというと、某シーンでは「それはないだろ!」という声とともに笑い声がもれたし、反対にあれがかっこいいシーンだと思う人たちからは「うるせえよ」という声があがった。エンドロールに入ると自然と拍手や指笛が沸き起こった。大人から子どもまでやんややんや、これが映画体験かとしみじみ思ったりした。

フランスの日本映画ファン

それともうひとつ話したいこととして、フランスの日本映画ファンのイメージが更新されたことがある。

 

フランス人と話すと、よく日本映画が好きだと言われる。日本映画ってどうせあれでしょ、タケシ・キタノとかハヤオ・ミヤザーキでしょ、とこちらで勝手に思っていると、ノンノン、古いところではコン・イチカワ、そして最近だとヒロカズ・コレエダだというのだ。これは僕の友人がとくに映画好きだからというわけではない。たとえば名画座なんかで日本人映画監督の没後何周年特集をやっていたり、街のポスターの中に日本映画のものを見つけたりすることもよくある。『君の名は』はフランスでも公開後大ヒットを飛ばしたし、もはや日本映画は常識のひとつとなりつつある。

 

先日だって、たまたま通りがかった大手の映画館、MK2で『海よりもまだ深く』(是枝裕和監督作品、日本公開2016年)の巨大広告がかかっていた。

考えてみればなにも不思議はなく、2013年には『そして父になる』でカンヌ審査員賞をとったことも記憶に新しいし、それまでにない視点を与えるような作品で自分のフィルモグラフィをつねに更新している人だ。世界的にすでに有名なのもうなずける。

 

僕もこの作品にもともと興味があったので実際に見に行ってみた。人入りは平日の昼にもかかわらず7割程度で、大学生というよりもある程度歳のいった大人の客層だった。この映画を見た方ならご承知のとおり、日本を代表する名女優、樹木希林の怪演が光る作品だったこともあって、会場はときおり笑い声で満たされていた。

 

付け加えるならば、昨年2017年の12月に新しい映画配信サービス(E-Cinéma)が始まったのだが、その記念すべき一発目が『アウトレイジ 最終章』(北野武監督作品、2017年公開)だったことにも驚かされた。もともとこのサービスの主旨が、「大きな規模で劇場公開されないような作品や海外作品を期間限定、月額いくらで公開する」という、NetflixやAmazonプライムと映画館の真ん中くらいを狙ったものであるから、すでにある程度ファンのついているキタノ映画が選ばれたのだろう。しかし、ここまで力のはいったサービスが日本映画からスタートするのが僕にとっては少し驚きであった。

 

おわりに

僕がパリで映画を見ていて驚いたことを中心に書いてみたが、そのほかにもインディ映画上映についてとか、エンドロールを最後まで見ないことについてとか、お伝えしたいことはいろいろあるので、また機会を改めたい。

 

さて、次回はパリ在住の日本人ミュージシャンとその活動についてお伝えしたい。

乞うご期待!

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